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自己資本比率から考える投資の意思決定(投資実験報告2019 その7)

自己資本比率の高い会社には安心感がある。借金はすべきかすべきでないか、両論あろうが、私であれば無借金経営が好ましいと考える。

自己資本比率を鵜呑みにしない

自己資本比率は調べればすぐに出てくる数値だが、その裏付けとなる資産の内容も大事でこれを見ずに、ああ何%ね、と安心することはできない。貸借対照表を吟味する。

マニーを調べ始めた当時の有報を見れば、特に懸念を覚えることもないまっとうな感じの資産構成であった。

ひとつ気になったのが「のれん」の存在である。0.25億円ののれんが資産の一項目としてある。

<マニー社の「のれん」> ※2007.8期 連結貸借対照表より

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注目すべき情報その③:のれん

のれんは通常、合併や買収、事業の譲受などに起因して生じる。

そもそも「のれん」とはいったい何なのか?

超過収益力であると会計の教科書では説明されるのが普通だが、そうとでもとらえなければ説明のつかない、その実あやふやな正体不明のものという側面がのれんにはある。

いじわるな言い方になるかもしれないが、経営者の思い込みで高値づかみした金額という性質のものも少なくない。そういうのれんはある程度の期間、資産として扱われるが早晩、のれんの減損損失という形で表面化し、損益を悪化させ、資産項目から消え去ることになる。

マニー社の場合、純資産134億円に対して0.2%弱と小さな割合であるので最悪、全額減損となったところで大勢に影響はないだろうと考えた。

<マニー社の自己資本> ※2007.8期 連結貸借対照表より

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のれんはないものと考えるスタイル

のれんの実態はあやふやなものと(個人的には)考えるため、また投資の意思決定は損失の回避を最優先事項とするため、投資の意思決定に際して、のれんはないものとして考えるようにしている。のれんが全額減損となったとしたら自己資本比率はどうなるだろうと考えるのだ(当然、自己資本比率は低下する)。

それでもなお魅力を減じない会社にのみ、実験ファンドは投資して来た。これが正しいやり方というつもりはない。ひとつのスタイルである。

莫大なのれんを抱える会社と投資家が直面するリスク

懸念を覚えるのは巨額ののれんを抱える会社である。

昨今、野放図な買収を繰り返し、その結果、巨額ののれんを抱える会社が増えて来た。

極端に低い金利とのれんの規則償却を禁止するIFRS米国会計基準がもたらした弊害であろうととらえている。

当初の思惑が外れて買収した事業が想定通りの結果を生まなかった、高過ぎる買収だったとみなされてのれんの減損が強いられたときどうするのか。どうしようもないのだが。自己資本を食い尽くし債務超過に陥る危険性を考えたりしないのか。

近い将来、巨額ののれんの減損損失が、連鎖倒産などを通じて大きな問題となる可能性は低くないと考えている。もしそんなことになれば、それを契機にのれんの規則償却がIFRS米国会計基準においても復活するかもしれない。

さて、次に示すのは直近の決算で巨額ののれんを計上したある会社の連結貸借対照表IFRS適用会社なので連結財政状態計算書だが実質同じもの)である。

<巨額ののれんを抱える某社の連結財政状態計算書>

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*ほぼ自己資本に匹敵するのれんを抱える会社を、投資家諸氏はどうとらえるのか?私は近づきたくない。

実はこの某社、実験ファンドが保有していた会社なのだが経営者の既存株主の利益を蔑ろにする姿勢と行動に驚き呆れ、2019年初頭に全株売却処分とした。

(付記)自己資本と純資産はちょっとちがう

ところで、自己資本と純資産は似ているがちょっと異なる概念である。純資産から非支配株主持分と新株予約権を除外したものが自己資本となる。まぎらわしい。

ちなみにマニー社の場合はいずれも純資産に含まれていないので、純資産イコール自己資本である。