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米国会計基準を適用する会社のEPS(1株当たり当期純利益)情報、使用上の注意について

アメリカの yahoo! finance はさすが本家本元だけあって良くできていて、会社の主要な経営指標を一覧で把握できるようなつくりになっている。とても助かる。具体的には1株当たり当期純利益(潜在株式調整後)であるところの "Diluted EPS", 1株当たり純資産でであるところの "Book value per share" その他諸々と、とても便利である。

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※ちなみに、(ttm) とは trailing twelve months の略で過去12ヶ月間の実績に基づく数値の意であり、(mrq) とは most recent quarter の略で直近の四半期数値の意である。なお、EPS は Earnings Per Share 念のため。 

 日本のYahoo!ファイナンスにもよくお世話になっているのだけれども情報整理の洗練度合いでいえばUS版に一日の長があるといわざるを得ない。なお、Yahoo Japan にはたいへんお世話になっていてありがたく思っておりますことを申し添えておく。

さて、この記事の目的は yahoo! finance US を持ち上げることではなく、現在のアメリカにおける1株当たり当期純利益情報(EPS)には要注意という点が主題である。

というのも、数年前に米国会計基準が変わって、会社が保有している株式の時価の増減を純損益に含めるようにした結果、純損益情報が質的に変化(劣化)してしまったためだ。

※2017年12月15日以降開始の年度から適用。米国会計基準を適用している会社に影響あり。日本基準適用の会社は影響なし。 

 その結果、1株当たりの純利益情報に保有株式の時価変動が混入してしまい、それがいったいどんな意味を持っているのか?という状態になってしまった。

その発端はどうやら2008年のアメリカ住宅バブルの崩壊、リーマン破綻などから起きた世界的な信用収縮、金融危機から教訓を得たのか何なのか、会社が持っている金融商品時価変動も純利益に反映させて開示することが、会社の実態を適時適切に開示することにつながるというふうに考えたらしいのだが、実際のところはよくわからない。

うがった見方かもしれないが純利益情報の劣化を意図的に望んだ勢力がいたのではないかと勘繰ってみたくもなる。

要するにいいたいのは、便利な経営指標一覧を活用するのは良いのだけれども、それだけに依存してしまうと危険だよということである。

たとえばバークシャー・ハサウェイ社の場合、会長であるバフェット氏は会計基準の改正(改悪)によって純利益情報が使えないものになってしまったと嘆きつつ、アニュアル・レポートのなかで、保有している株式など金融商品時価増減が純損益に与えた影響額を脚注で開示してくれている。↓こんな感じである

<Berkshire Hathaway Inc. 2019 Annual report, K-31 より一部抜粋>

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※企業情報開示のお手本

気まぐれな市場価格の変動による影響額を除外することによって、バークシャー・ハサウェイという企業グループが持つリアルなビジネスが生み出した理論的価値を、ひと昔前の伝統的な純利益に近づけて把握することができる。情報を求める者は、株価の短期的な変動というノイズを除去できるというわけだ。

経営指標は、企業の本質的価値を見通すための便利な窓のようなものだと思う。ただし、その窓の本質を理解しておかないことには、ミスリードされてしまう危険性も併せ持つということを知っておくべきだろうと思い、こんなことを書いておく。

加工された情報はたしかに便利なのだが、それに依存しすぎることなく、一次情報に当たることがやはり大切なのだという話である。