【分析記事】冷や水を浴びせることしかしないFRBの真意について
- 米国の中央銀行の中枢、連邦準備制度理事会 (FRB: Federal Reserve Board) による、ドラスティックな利上げの連続に、市場はドン引きである。
- インフレ退治のための利上げなのだという。
- このところの物価高は、要するに、原油高に起因するコストプッシュ型の物価高であり、ディマンドプル型のインフレでないのだから、需要低減を促す利上げは、とんちんかんにもほどがある愚かな行為という以外にない。
- しかし、FRBは馬鹿ではない(むしろ狡猾で誰よりも邪悪)。つまり、FRBの意図はインフレ退治などではない。
- ロシア、中国だけでなく、サウジアラビアまで向こうに回した米国。
- 決済に米ドル以外の通貨が用いられる原油取引の増加が根っこにある。
- 米ドルの原油取引決済通貨としての地位の低下。米ドル需要の減少。
- ペトロダラーシステムに亀裂が入った。あるいはすでに大穴が空いているのかもしれない。ということは、米ドルはすでに基軸通貨ではない。
- 放っておけば米ドル安が始まり、止まらなくなる可能性が低くない。
- 米ドル通貨発行権がすべてのFRBとしては、これを何としても止めたい。価値を大幅に毀損している(しつつある)米ドルの市場価格を支えなければならない。
- そのためには、世界にあふれている米ドルを回収しなければならない。米ドル供給量が需要量を超えれば、超えていることに気付かれれば、米ドルは売り浴びせられてしまう。
- その意図を持って行われているのが、いま米国で執拗に続けられている利上げなのではないか。
- FRBの真意は、米ドル通貨の需給均衡を目した発行量調整であり、インフレ退治はただの口実に過ぎない。
- 上記の推測が正しければ、FRBが必要と考えるドル紙幣回収量に達するまで、利上げは継続される。物価の動きがどうなろうがそれは本質的に無関係なのだ。
- むしろ、意図的に物価高を演出するくらいのことは平気でやると思われる。物価高の理由をすべてロシアのせいにできると考えているのであれば、尚のことである。
2021年度の投資実験ファンド運用成績
投資実験ファンド、2021年度の運用成績はマイナス (-1.48%) でした。
ベンチマークとしている東証株価指数TOPIX (+12.48%) にも、日経平均 (+6.34%) にも負けました。
※いずれも配当込み数値。ちなみに実験ファンドは税引後の配当を加算、株価指数は税引前の配当を加算しています。
こんな年もあります。
<投資実験の目的>
・ 決算書を読み込んで投資先銘柄を選別、⻑期投資に徹することで、市場全体を⻑期的に上回るリターンを得られるのではないかとの仮説を検証する。
<実施した手続>
・ 個⼈資産の大部分を投じて株式投資を⾏う(だから真剣)。基本的にバイ・アンド・ホールド。
私財の大部分を投じての投資実験、これで丸20年となります。実験ファンドの元本は当初の4.0倍(基準価格)になりました。
同じ期間、TOPIX連動型の投資信託に投資した場合、元本は2.5倍となり、日経平均連動型の場合は3.5倍になります。
不景気だ不景気だと、テレビや新聞ではいつも言われますが、付加価値を積み重ねてきているのが日本の企業群であり、現場で奮闘しているビジネスマンの方たちなのだと思います。
配当込みで考えれば、日本の株式市場に参加する投資家の富は、1989年末(日経平均株価史上最高値を記録した時点)の水準をとっくの昔に上回っていることもわかります。
そして私が証明したかった、決算情報を詳細に読み解いて投資先を選別し、長期間投資し続けるという手法は、この20年間で見ても明らかに有効であったことが示せたのではないかと思います。
SPAC上場について、その本質を考える
ご質問をいただきました。落ち着いてご回答したいと思っていたのですが、師走のこの時期、妙にあわただしい状況にありますことから、取り急ぎ、私の考えを記しておきます。落ち着いた頃に、ラジオでも取り上げたいと思います。
トランプさんの新SNSでニュースになっていますSPACについて質問があります。
果たして経営基盤も実績もないスタートアップ企業がいきなり上場出来るというのはどうなんでしょうか?
仕組み的に内輪だけの金儲けの手段になったりしないのでしょうか?(メリットもあると思いますが...)
庄司さんから見てSPACのメリットとデメリット、そして庄司さん自身はSPACについてどう思われるのか?
興味がありましたら、またラジオで話してくれると嬉しいです!(naoさん)
ラジオを聴いてくださっているのですね。ありがとうございます。
以下に、思うところを記しておきます。
<SPACについて>
- 特別買収目的会社 (Special Purpose Acquisition Company) のこと。スパックと読む。
- 海の向こうで、SPACブームが起きていた。今年2021年の米国IPOによる資金調達額の過半が、SPAC上場によるものだそうだ。ただ、最近はブームも沈静化する方向へ向かっているようではある。
- Digital World Acquisition Corp. (以下、”DWA社”) という上場SPACがある(Nasdaq上場)。
- このSPAC、トランプ前大統領が設立したメディア会社(TRUTH Socialを運営する)Trump Media and Technology Group社との合併を計画していると報じられた。
- ただ、合併の合意がなされたタイミングが規制に反している可能性があるということで、SEC(米国証券取引委員会)とFINRA (自主規制団体としての民間会社。Financial Industry Regulatory Authority) から、質問状が送付されたらしい。WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)などが批判的なニュアンスとともに報じている様子である。
- ただ、そのニュースが報じられてのち、この上場SPAC・DWA社の株価は2日間で10倍に跳ね上がった(10/20, 10ドル → 10/22, 109ドル)。
私の見解は、次のとおりである。
- SPAC上場スキームに力を入れている投資銀行群と、なんだかよくわからないがとにかく儲かりそうだからと、SPACの株主となる投資家たち、という構図が見える。
- 空箱上場、裏口上場、上場審査回避目的と、悪い噂の絶えないのがSPACという存在であり、投資家保護の仕組みを整えてきているとはいえ、そういうネガティブな側面のあることはやはり否定できないのである。
- ひとことでいって、カネ余り時代のあだ花といえる。バブルの発生に付随して現れる事象という以外にない。
- バブルの存在を示唆する事象といえる。バブルのエネルギーは充満している。
- また、大衆から金を巻き上げる手法にも見える。
- 米国では1980年代にSPAC絡みの不祥事が相次いだことが問題視された。
- SPAC上場は、けっこう前から行われていて、当時から問題視されてもいた。
- 現在、日本ではSPAC上場が認められていないが、東証は、前向きな検討を続けているようでもある。認めないのが健全な姿といえよう。
<結論として>
- SPACへの投資、やりたいという人を止める筋合いはないのだが、もしも、自分の親から、SPAC投資を考えているのがどうだろう?などと相談されたとしたら、絶対、手を出してはなりませぬというだろう。
投資ラジオ(楽しい投資Podcast)「呂氏春秋が今に伝える人物の見極めかた」
楽しい投資研究所の、投資ラジオ(楽しい投資Podcast)を配信しました。今回のテーマは、「呂氏春秋が今に伝える人物の見極めかた」です。
2本、あります。
1)経営者を見抜く法(呂氏春秋が今に伝える人物の見極めかた・その1)
・会社の価値は、経営者が誰かによって9割がた決まるといわれる。投資する側としては、経営者の人物を見極めることがとても大切な仕事となる。
・「呂覧」(呂氏春秋)という古代中国の文献がある。秦の始皇帝の時代、秦国の宰相を務めた呂不韋が、多くの学者に編纂させた百科事典的なものである。現代の百科事典とは多少、趣が異なっていて、そのなかには、人物の見極めかたとして、八観六験(はちかん りくけん)という手法が記されている。
2)米ファイザー事例研究(呂氏春秋が今に伝える人物の見極めかた・その2)
・人物の見極めかたとして、呂氏春秋にはこうある。聴かば則ち其の行うところを観よ(聴則観其所行)。見解や意見を聴いたときには、その人が実際にどのような行動をとるかを観るのが良い。
・武漢肺炎ウイルスに対するワクチンとして、米ファイザー社の開発したワクチンが有効らしい、という評価結果が公表されたのは、2020年11月のことである。当然のように、同社の株価は上昇した。
そのとき、ファイザー社の経営陣は、どのような行動をとったか?ファイザーCEO・ブーラ氏は、自身が保有するファイザー株式の大半を売却したのだ。
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呂氏春秋が今に伝える人物の見極めかた その2:米ファイザー事例研究
人物の見極めかたとして、呂氏春秋にはこうある。
聴かば則ち其の行うところを観よ(聴則観其所行)。[季春紀/論人]
見解や意見を聴いたときには、その人が実際にどのような行動をとるかを観るべし、といったところか。
武漢肺炎ウイルスに対するワクチンとして、米ファイザー社の開発したワクチンが有効らしい、という評価結果が公表されたのは、2020年11月のことである。当然のように、同社の株価は上昇した。
そのとき、ファイザー社の経営陣は、どのような行動をとったか。ファイザー社のCEO・A.ブーラ氏は、自身が保有するファイザー株式の大半を売ったのだ。また、副社長のひとりも、同じ日に同じく、持株の大半を売却処分とした。
・ファイザーCEOらも保有株売却、ワクチン期待で製薬株が急伸(2020.11.12 ブルームバーグ)
ーー米製薬大手ファイザーのアルバート・ブーラ最高経営責任者(CEO)は、保有する自社株の売却で約560万ドル(約5億9000万円)を手にしたーー
このワクチンは、同社の扱う製品として、これ以上ないほどの市場規模を持つ。全人類が潜在的なユーザーであり、国家買い取りであり、しかも複数回の接種が行われるのだから。
同社にとって、これ以上ないほどのビジネス チャンスであるはずなのだが、ファイザー社トップの行為をみれば、彼自身、そのようには考えていなかったらしいと読める。あたかも、その日が、保有株を売り抜ける最大の好機とでもとらえていたかのようだ。
まるで、新ワクチンのリリースが、自社の企業価値を大幅に損なう発端になるとでも思っていたかのようにも見える。これはうがった見方だろうか。
これは、大きなニュースと私には思えたのだが、日本のメディアが大きく報じることはなかった。
もし、ファイザー社の開発したワクチンが、人類を救うようなすばらしいものであるのならば、今後、同社のさらなる成長が見込めるし、株価のいっそうの上昇も期待できるはずである。ところが、当の経営トップは、真逆の行動をとった。これをどうとらえるかは、私たち投資家個々人の判断するところではある(ちなみに2021.9.3現在、ファイザー社の株価はさらに上昇している)。
当時、ファイザー社のCEOは、CNBC記者からの、「あなたはいつワクチンを接種するのか」との問いに対して、言葉をにごし、明言を避けた。
※質問への回答を重ねてうながされたファイザーCEO(右)と、記者(左)の、気まずくも緊張感ただよう間。動画はこちら。
「いつでも打てるが、私は健康であるし、待ち望む人々の列に割り込むようなまねはしたくない」というのがその理由だそうだ。
しかし、ワクチンの安全性に対する懸念が世界中で高まっているそのようなときにこそ、本当に自社のワクチンが自信を持って供給できるものであるのならば、自ら率先して接種して見せても良いはずと私は考えるのだが。
ファイザーCEOの言葉を額面通りにとらえては、経済的にも健康面でも、痛い目を見る危険性があるように思えたのは、私だけだろうか。
これら一連の行動を見ていえるのはふたつ。私がファイザー社の株を買うことは当分ないだろうし、ファイザー社製のワクチンを積極的に接種したいと思うこともないだろうということである。