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悪臭を放つ決算書が存在すること

ゴーン氏が主導した際どい決算、過剰な演出による劇的なV字回復決算にいかがわしさを感じた私は、日産自動車へ投資することはなかった。当時は日本全国がゴーン氏に対する称賛の嵐で、私の感覚の方がおかしいのだろうとすら思 っていた。

今にして思えば、当時の日産の「V字回復」決算に感じた違和感は 、経営者の心根の卑しさを反映したものだったと思える。こういった決算に対する皮膚感覚とでもいうべきものが私をこれまで何度か救ってくれたようにも思える。会計監査に明け暮れ疲弊した日々はどうやら無駄ではなかったようだ。

ところで今、ゴーンの決算以上にいかがわしい決算書が日本の証券市場を侵食しつつあることを書いておきたい。

私が公認会計士として会計の世界に入って20数年になるが、ここまで悪意を感じさせる決算は見たことがないという決算書を、2019年は目にする機会があった。
悪臭を放つ決算書があるとしたらこれではないかと思わせられるものだった。PDFファイルが臭うのだ。経営者の心根の卑しさを感じさせるという点では、ゴーンがかわいく見えるレベルである。

このような決算発表を行って恥じない会社経営者も存在するのだという事実を、驚きをもって受け止めた。しかし普通の投資家がこのような経営者に近づくことはお勧めしない。 それどころか絶対回避警戒警報を発したい。

会社名をここに書くことは控える。ただ、近づくべきでない会社・経営者を避けるためのキーワードを書いておく。それは「独自指標」である。会計基準を完全に無視した、経営者が自画自賛するためだけの経営指標である。これをもって己が功績と胸を張るような輩が率いる会社に関わってはならない。脱兎の如く逃げるに如かずである。

テン バガー:10倍になる株の見つけ方(投資実験報告2019 その3)

■初の10倍株

実験ファンドの保有するある銘柄の値上がり益と配当による累積リターンが+900%を超えた。10倍株と呼んでいいだろう。実験ファンド初のテン バガー(ten-bagger)の誕生である。

その会社の名は船井総研ホールディングス。

取得したのは2004年3月なので、テン バガーとなるのに15年と9ヶ月かかった。

そもそも10倍株となることを期待して買った株ではなかった。ここまで上がるとは正直、予想もしていなかった。

当時、この会社の創業者(船井幸雄氏)が良いことをいうなと感心したので、そして調べてみたら財政状態も業績も悪くなかったので買った。あと、私の最初の著作を同社の発行誌で紹介してくれたということもあった。その程度である。

さほど目立つ会社でもなかったように思う。時価総額が小規模の会社でいわゆる小型株だった。

コンサルタント集団の会社である。人が最大の資産という会社だった。

財政状態は良かった。自己資本比率は高めの水準。流動比率も問題なし。ROEはまあまあキャッシュ・フローも健全に見える。

<2003年(平成15年)12月期の有価証券報告書・主要な経営指標等の推移>

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■きっかけは自社株買い

この会社を買おうと思ったのは当時、同社が立て続けに自社株買いを行っていると新聞で読んだのがきっかけだった。まともな経営者であれば自社の株価が十分に安いと考えてのことのはずである。

<これも2003年12月期の有報から>

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取得後、大きな値動きもなく11年が経過した。じわじわ上がり始めたのは2015年頃。急騰したのは2017年以降である。待つ必要があった

最初から期待していたわけではなかったので投資額は少額であったことだけが心残りである。株価は上がったのに悔しい。

 

■株価の動き(外部リンク)

船井総研HDの株価チャート(※Yahoo finance へのリンク)

 

■おわりに(現在の株価について)

ちなみに、現在の同社の株価はかなり高い水準にあると思っている。現在の株価は個人的に試算している理論値の倍以上である。なので買い増しはできずにいる。

 

投資実験報告2019 その2:局地的バブルとテン バガー

■実験ファンドの投資先すべて:

実験ファンドが保有する銘柄を一覧にまとめた。

せっかくなので銘柄別に保有期間と利回り(年率複利)も計算してみた。次のとおりである。

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実験ファンド保有銘柄一覧(2019年末)

■売却処分:

年初までに製薬会社の株をすべて売却処分した(B社/製薬)。経営者が信用できなくなったためである。もっと早い段階で見限るべきだった。ゴーンがかわいく見えるレベルの経営者は今もいる。

■新規投資・追加投資:

新たに買った銘柄が1つ、追加投資した会社が3つ。株価が大きく下落したタイミングで買った。もっと下げるかと思ったのだが、思いのほか回復が早く小規模の追加投資にとどまった。

■テン バガー:

2019年は実験ファンド初のテン バガー(10倍株)が生まれた年となった(F社/サービス)。その株式の一部を売却した。良い会社ではあるのだが、株価が高すぎるように見えたため一部を利確とした。

■最大寄与銘柄:

9倍株(いわばナイン バガー)となった銘柄(M社/精密機器)もある。2019年はこの会社の株価が大幅に上昇し、実験ファンドに大きく寄与した。1年間で株価は2.3倍(取得原価比で見れば+528%)となった。2009年から2011年にかけて取得した銘柄なのだがここにきて急騰した。株価がいつ動くのかはまるでわからない。

■その他:

・トランプ米大統領の恫喝でFRBが利上げを見送らなかったらここまで上がることはなかっただろうと思う。

・いつ暴落するかわからないという警戒心をこの4~5年ずっと持ち続けているのだが、2019年はそのときではなかった。

・こうして見ると大幅な株価上昇が当期の好成績につながった。あり余るマネーがエネルギー源であり、ある種のバブルであることはまちがいないと思っている。ただし無節操な株バブルの時代は過ぎたようで、じゃぶじゃぶのマネーが流入先を厳しく選別しているようにも見える。局地的バブルがそこかしこに生じている状況が今なのだろうと考えている。

 

投資実験結果報告・2019年末アップデート

■目的:決算情報を基に投資の意思決定を行うことは有利な結果をもたらすのか?という問いに対する答えを得る。

■利用した情報:主として有価証券報告書決算短信。その他の公開情報(新聞、雑誌記事など)も適宜参照した。

■実験期間:18年間(2002年初~2019年末)

保有銘柄数:24(日本株19銘柄、米国株5銘柄、インデックスファンド1。2019年12月末時点)

■基準価格:39,398(2019年末時点)※2002年初め(実験開始時)10,000

ベンチマーク日経平均TOPIX株価指数連動型ETFに投資した場合の運用成績と比較した)

※付記:ベンチマークとした日経平均TOPIX株価指数連動型ETF(ダイワ上場投信-日経平均・トピックス)を保有した場合と想定しており、その運用成績は保有コスト差引前をベースとして算定している。なお、実験ファンドは運用に係るすべてのコスト差引後を以て運用成績としている。

■結論:有効(実験開始後18年経過時点)

<実験結果の表:運用成績(直近5年)>

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実験結果(直近5年間)

<実験結果グラフ:当初100万円を投資したと仮定>(日経平均TOPIXと比較)

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基準価格推移のグラフ

実験結果グラフ:年度別運用成績(日経平均TOPIXと比較)

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年度別運用成績のグラフ

最後にひとこと:投資家は有価証券報告書決算短信を読んだ方が絶対に有利ですよ。 

 

 

カルロス・ゴーン氏の国外逃亡から学べること

決算数値には経営者の人格が反映されると考えている。

そして会社の決算から本当に読み解くべきものとは、利益率がどうこう、財務比率がどうこうなどではなくその向こうにある何かだとも考えている。その何かとは経営者の人物である。

バフェット氏の言葉を借りれば、その経営者は株主と正面から向き合っているかどうかということだ。

経営者のなかには不届きな者もいて、株主の財産を食い物にしようとする輩もいる。

カルロス・ゴーン氏が日本にやってきて日産の経営再建に着手したのはかなり昔のことだが、私にとっては記憶に新しい。いわゆる日産リバイバルプランである。

当時は日本のメディアがこぞってゴーン氏を褒めそやしていたが、彼のトップに着任してからの日産の決算書(有価証券報告書)を見るに、特にその業績急回復の根拠となる数字、損益計算書を見るに、危うさを感じた。その危うさは、彼の過剰な演出から来ていた。

当時、彼が主導した利益のV字回復について、その会計処理のきわどさについて、指摘するメディアは皆無といっていい状況であった。

一部、会計の専門家や日経金融新聞の解説の中で取り上げる人もいた。いわゆるビッグバスである。何でもかんでも損失処理し、翌期はその反動で大幅増益と見せる。ところがそういった手法への批判的な指摘は、世間からは黙殺されているような状況であった。

今回のゴーン氏の無断出国は、巨額横領疑惑に対して自己保身の釈明のみでの国外逃亡とみなすほかない。

その人物像は、彼が着任早々に決算書で見せた過剰演出のなかにすでに見てとれる。己を実態以上に飾り立てようとする行為は誠実性からほど遠い。

これは私たち投資家にとって、決算書上の数字から読み解くべきものとは何なのかということを考えさせられる出来事であろう。すなわち誠実性に欠けた経営者に投資すべき理由は一切ないということだ。

今回のゴーン氏の国外逃亡劇は、このことを如実に示してくれているある意味、理想的なモデルケースといえる。

生身の投資家が実は有利な時代

エコノミストの記事にこんなのがあった。今や株式市場の取引は、アルゴリズムによるものやAIによるものが大きな割合を占めるようになった。その一方で、人間がマネジするファンドは指数連動型のパッシブファンドがほとんどという状況である。果たしてこの状況下で市場の価値評価機能、ガバナンスの機能ははたらくのだろうかと。

しかしそもそも人が欲得ずくで取引を重ねるなか市場による価値評価機能など期待できるものだろうか。

結論からいって短期的にそれは期待できない。損得のみを考え行う人間の行動はしばしばヒステリックなものとなる。市場がその価値評価機能を果たすためには時間の洗礼を受けねばならない。時間が必要なのだ。時の試練を乗り越えられるものだけが生き残れるし、評価されもする。長期では市場は賢明な価値評価を行ってくれるが、短期的には全くといっていいほどあてにはならない。

そしてアルゴリズムはいうに及ばず、現在のAIは情報処理能力がやたらと高い投機家でありギャンブラーに過ぎないといえそうだ。

アルゴリズムはもとよりAIは今のところ人間の知性にはどうやら及ばない。特に投資の分野においては長期投資のための意思決定を行い得る水準には至っていない。投資の意思決定を賢明に行うには、精神的な成熟が必要ということなのだろうか。

ともあれ、そういう状況にあるせいか市場のボラティリティがここ数年間、妙に高まっているように感じられる

ほんのわずかなショックにも乱高下させてしまうようだ。レミング集団自殺を見ているようだ。見たことはないが。

これはある意味、長期投資を主軸とする生身の投資家にとってチャンスともいえる。未熟なAIの群れが投げ売ってくれるからだ。

価値と価格の乖離を見極めることはそれほどに困難の伴う仕事といえる。今のAIには荷が重いらしい。

情報面での不平等について

情報開示を行うことが有限責任の事業体という存在を認めることに不可欠な条件なのだが、その情報開示を必要とする人すべてが開示された情報を読むというものでもないし、読まなくても良い。

読んだ方がもちろん良いに決まっているのだが、読める人にとってみれば自分だけ読めるのが最も有利な状態であって、自身を除く大多数の人々が実質的に読めなければ、自身の情報的優位は確実なものとなる。

誰にでもわかりやすい情報開示を行うことをすべての人が望んでいるかというとそうではないのだろう。

情報面での平等など、少なくとも現時点においては幻想でしかないし、これまでもずっとそうだった。