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株主と利害関係の一致した経営者を選ぶ(投資実験報告2019 その8)

この年末年始はゴーン スキャンダル一色だった。

会社を私物化し、株主の資産を喰いものにする経営者について考える良い機会でもあった。

注目すべき情報その④:役員の状況・大株主の状況

立派な経営者もいる一方で劣悪な経営者もいる。

株主の立場に立って経営判断を行う、株主利益の最大化を図る経営者にこそ資金を託したい。しかし他人の心のなかは読めない。どうするか?

内心が読めないのなら、外見から判断するしかないだろう。株主の立場で会社に深くコミットしている経営者が良い。

そこでマニー社への投資を検討しているときに見たのは有価証券報告書、役員の状況のパートである。経営者がどれだけ株式を所有しているかを把握した。

<役員の状況> マニー社 2007.8 有価証券報告書より

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取締役上位3者(=執行役上位3者)合わせて持株割合は26%強、さらに大株主の状況も見た。すると創業者・現経営者一族の持株割合の高いことが読めた。

<大株主の状況より抜粋> マニー社 2007.8 有報より 

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松谷姓の大株主、またマニックス社も彼らが深く関与する会社と推測(住所が同じ)。MANI社員持株会もまた存在感のある大株主。これら経営に深くコミットしているとみなせる大株主の人々の持分を合わせれば44%強に至る。

経営者自身に加え持株会を通じた従業員の人々もまた、株主の立場で考え行動してくれることを期待しても良さそうに見えた。

自己資本比率から考える投資の意思決定(投資実験報告2019 その7)

自己資本比率の高い会社には安心感がある。借金はすべきかすべきでないか、両論あろうが、私であれば無借金経営が好ましいと考える。

自己資本比率を鵜呑みにしない

自己資本比率は調べればすぐに出てくる数値だが、その裏付けとなる資産の内容も大事でこれを見ずに、ああ何%ね、と安心することはできない。貸借対照表を吟味する。

マニーを調べ始めた当時の有報を見れば、特に懸念を覚えることもないまっとうな感じの資産構成であった。

ひとつ気になったのが「のれん」の存在である。0.25億円ののれんが資産の一項目としてある。

<マニー社の「のれん」> ※2007.8期 連結貸借対照表より

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注目すべき情報その③:のれん

のれんは通常、合併や買収、事業の譲受などに起因して生じる。

そもそも「のれん」とはいったい何なのか?

超過収益力であると会計の教科書では説明されるのが普通だが、そうとでもとらえなければ説明のつかない、その実あやふやな正体不明のものという側面がのれんにはある。

いじわるな言い方になるかもしれないが、経営者の思い込みで高値づかみした金額という性質のものも少なくない。そういうのれんはある程度の期間、資産として扱われるが早晩、のれんの減損損失という形で表面化し、損益を悪化させ、資産項目から消え去ることになる。

マニー社の場合、純資産134億円に対して0.2%弱と小さな割合であるので最悪、全額減損となったところで大勢に影響はないだろうと考えた。

<マニー社の自己資本> ※2007.8期 連結貸借対照表より

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のれんはないものと考えるスタイル

のれんの実態はあやふやなものと(個人的には)考えるため、また投資の意思決定は損失の回避を最優先事項とするため、投資の意思決定に際して、のれんはないものとして考えるようにしている。のれんが全額減損となったとしたら自己資本比率はどうなるだろうと考えるのだ(当然、自己資本比率は低下する)。

それでもなお魅力を減じない会社にのみ、実験ファンドは投資して来た。これが正しいやり方というつもりはない。ひとつのスタイルである。

莫大なのれんを抱える会社と投資家が直面するリスク

懸念を覚えるのは巨額ののれんを抱える会社である。

昨今、野放図な買収を繰り返し、その結果、巨額ののれんを抱える会社が増えて来た。

極端に低い金利とのれんの規則償却を禁止するIFRS米国会計基準がもたらした弊害であろうととらえている。

当初の思惑が外れて買収した事業が想定通りの結果を生まなかった、高過ぎる買収だったとみなされてのれんの減損が強いられたときどうするのか。どうしようもないのだが。自己資本を食い尽くし債務超過に陥る危険性を考えたりしないのか。

近い将来、巨額ののれんの減損損失が、連鎖倒産などを通じて大きな問題となる可能性は低くないと考えている。もしそんなことになれば、それを契機にのれんの規則償却がIFRS米国会計基準においても復活するかもしれない。

さて、次に示すのは直近の決算で巨額ののれんを計上したある会社の連結貸借対照表IFRS適用会社なので連結財政状態計算書だが実質同じもの)である。

<巨額ののれんを抱える某社の連結財政状態計算書>

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*ほぼ自己資本に匹敵するのれんを抱える会社を、投資家諸氏はどうとらえるのか?私は近づきたくない。

実はこの某社、実験ファンドが保有していた会社なのだが経営者の既存株主の利益を蔑ろにする姿勢と行動に驚き呆れ、2019年初頭に全株売却処分とした。

(付記)自己資本と純資産はちょっとちがう

ところで、自己資本と純資産は似ているがちょっと異なる概念である。純資産から非支配株主持分と新株予約権を除外したものが自己資本となる。まぎらわしい。

ちなみにマニー社の場合はいずれも純資産に含まれていないので、純資産イコール自己資本である。

 

1株当たり純利益を読む法(投資実験報告2019 その6)

株式投資で儲けるには(あえて生々しい表現で書く)安く買うことが大切だ。高値づかみをするなど論外である。

いきなり話はそれるが、企業買収が経営者の仕事だと勘違いしているCEOはけっこういるようで、そういう輩は慣れない買収交渉で、交渉相手から何度も値を吊り上げられ、それを丸呑みにしていたりする。そしてそんなどうしようもない経営者を取締役会はさっぱり取り締まれていなくてと、はたから見ても散々な会社があった。

さらに笑えないことに実験ファンドはそんな会社の株主であったりしたので、そういうどうしようもない会社には見切りをつけて、2019年の初めに全て処分した。もっと早い段階で売り払うべきであった。今でも思い返すたびに腹立たしく思う。

それはともかく、安く買うにはその株の価値がどれくらいなのかある程度目星をつけておく必要がある。

正確な価値評価は無理である。大雑把にやるしかない。そうする他ないのだがこれがとても大切であろうと思う。大きく誤らないためにである。

そこでとても重要になってくる情報が、1株当たり当期純利益だ。

注目すべき情報その②:1株当たり当期純利益、あるいは潜在株式調整後1株当たり当期純利益

その会社の長期的な利益水準が知りたい。

純利益は、その会社がどの程度の価値を毎年生み出していけるのか推測できるような指標であって欲しい。

近年、当期純利益の概念が変更された(日本の会計基準)。IFRS国際財務報告基準)とのコンバージェンスの一環である。2015年4月以降に始まる年度から、当期純利益は非支配株主に帰属する分を含んだものになった(ちょっと前までの少数株主損益のことである)。

気軽に変更して良い概念ではないと思うのだが、IFRSの存在を無視できないようなのでやむをえまい。できればIFRSなど完全無視してしまえば良いと個人的には思っているのだが、私はその点影響力を持っていないのでしようがない。

ただ、1株当たり当期純利益は非支配株主に帰属する損益控除後の損益ベースで計算されるのでこちらの性質は従前と変わらない。

さらに、ちょっと前から、米国会計基準を適用する会社は保有する有価証券の時価変動を純損益に含めることを強制されるようになった。これまたまぎらわしい。2017年12月15日以降開始の年度からそうなった。

ちなみにバフェット氏は、この基準変更に際して純損益が「使えない("useless")」ものになったと批判している。

そんな基準変更をどこの誰が求めているのか?ただのノイズではないかと首を傾げたくなる場面が近年少なくない。

日本の会計基準IFRSや米国基準に比して遜色がないどころか最も常識的な基準であると思う。それでも基準を適用する企業数、アクセスできる資本市場の規模の差から、どうしても品質の劣るIFRSに引っ張られてしまうのだろうか。これまた腹立たしくもある。

そういうところも一応頭に入れて、1株当たり純利益の水準を見極めるのである。

ところで、「潜在株式調整後1株当たり当期純利益」が併記されている会社は、希薄化効果の顕在化している潜在株式が存在することを示しているので、この場合はただの1株当たり当期純利益は無視して、潜在株式調整後のものを実質的な1株当たり純利益とみなして考える。

ただし、株価水準が変動すれば希薄化効果の有り無し、その影響度は変わってくるのでその点、要注意ではある。

付け加えていえば、1株当たり当期純利益と潜在株式調整後のそれとの差が大きな会社の場合、潜在株式(たいていストック オプション)を無節操に発行していることもあるのでちょっとしたネガティブ サインととらえて投資の実行には慎重にならざるを得ない。

このようにして会社の1株当たりの価値創出能力を大雑把ながらも見極めようと努力しつつ、それを現在価値に割り引く。割引率はその会社の利益創出能力の成長率と不確実性とを考えつつ、微調整を加える。

割引率をどうするかは機械的にできることではないので主観のもとずばっと行う他ない。高値づかみを避けることが最優先事項なので、やや保守的に(割引率はどちらかといえば高めに)見積もってやってきたわけだが、結果を見ればそれが良かったのだろうと思っている。

 

最も大切にしてきた情報源について(投資実験報告2019 その5)

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投資先を決める際に最も重視してきたのは有価証券報告書だ。

会社の過去の実績を見る。これを評価の基礎に置く。

決算書に現れるのは過去の数値ゆえ将来予測の役に立たないという見解もあるがそれは浅い。過去から現在までの情報は全て株価に織り込まれているので無意味と見る人もいるが、実際にそうであったとすれば実験ファンドが市場平均に勝てることもなかった。

過去を正しく理解して初めて将来予測の精度を上げられる。過去を一切無視して将来をはかるなどギャンブルでしかない。

注目してきた情報について①:自己資本利益率自己資本比率

実験ファンドの投資先を決める際に注目してきたことを記す。

有報を手に入れたらまず冒頭の主要な経営指標等の推移を見た。

<事例:マニー株式会社。2007年8月期の有報から。注目し始めた頃のもの>

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まず気になるのは自己資本利益率である。高ければ高いほど良い。資本をどれだけ上手に扱えているかが示される。

併せて自己資本比率にも注目する。これも高ければ高いほど良い。低すぎると逆境に弱い。

レバレッジを効かせているので自己資本利益率は高いが自己資本比率は低いという会社も多い。そういう会社への投資は慎重になる。

自己資本利益率が高くとも、自己資本比率の低い会社はなかなか市場の信頼を得られないようにも見えた。なかなか株価が上がらない。

市場は案外慎重であるように感じられた。財政状態が脆弱な会社は逆境に見舞われると容易に倒れてしまう。そのリスクを感じた資本はすぐに逃げる。お金は臆病なのだ。

投資家が注意を払うべきものとそうすべきでないものについて

昔のバークシャー ハサウェイ社の株主総会を映した動画がYoutubeにあった。

株主のひとりが質問に立って、今後10年間の経済見通しについて教えて欲しいという。するとバフェット氏は、

その質問は重要だが不可知 (unknowable) だ。私たちはそういうものに注意を払わない。我々は重要 (important) で、かつ知り得る (knowable) ものにのみ注意を払う

というふうに答えていた。

むかし、あなたの信じる宗教は?と問われたバフェット氏が、

「私は不可知論者です」

と答えたという話があって、それはどういう意味なのかと思い続けて来たが、そういうことだったのかと腑に落ちるような良い動画であった。

この動画である

 

 

9倍株の見つけ方(投資実験報告2019 その4)

 ■9倍株も生まれた

テン バガーには至っていないのだが9倍株についても触れておきたい。累積リターンが+800%超の会社である。もう少しで10倍株だと考えてしまいがちだが株価の動きは予測がつかない。捕らぬ狸は皮算用しない。ただ9倍株もなかなかのものだと思う。取得後10年の銘柄である。

 

■実験ファンドを牽引してくれた会社:マニー株式会社(保有期間 10年)

2019年に大きく株価を上げて実験ファンドを牽引してくれた会社の名はマニーである。

以前、日経ビジネスの記事で元気な地方企業という扱いで紹介されていた。経済誌を読む意味はこういうところにある。

高い世界シェア。栃木に本社を構える。世界一にこだわる製品開発。高い技術力。会社四季報を読んでさらに興味を惹かれ、有価証券報告書をダウンロードした。
有報を眺めてみればなるほど利益率が高い。財政状態も良い。

 

◾️2007年8月期の有価証券報告書(冒頭部分):マニー(株)

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ROE自己資本比率流動比率、資産の中身、損益計算の内容、キャッシュ・フローの状況、経営者の持株状況、セグメント情報、会計監査人と監査意見等など。

これは良い会社である可能性が高いと最後に株価を調べた。高かった。

焦って買ったところで良いことはないので、この時は注目の会社として心に留めておくことにした。買い時を待った。

数年後、株価が安くなっていることを知った。2009年の冬のことだった。2009年12月から2011年3月にかけて、何度かに分けて買った。

取得した当時の時価総額は360億円程度。いわゆる小型株である。

その後しばらくの間、目立った値動きはなかった。

急騰したのは2018年と2019年である。

 

マニーの株価チャート(※Yahoo finance)

 

■まとめ

この会社を取得しよう、保有し続けようと思わせてくれた要因を挙げれば次のとおりである。

  • 評価高くユニークな製品を供給し続けている。
  • 高い市場占有率
  • 高い技術力。
  • 高い利益率。
  • 健全な財政状態。

9倍株となった要因として重要だったと思えたのは次のとおり。

  • 小型株だったこと(時価総額の小規模な会社でなければ大幅な値上がりを期待するのは難しい)。
  • 安く買うこと。焦って買わないこと。
  • 待ち続けたこと。(※追記)

 

■付記 

ちなみに2019年末現在、株価は個人的に試算している理論値に比べて100%以上高い。市場の人気・注目度が高い状況になっているのだなと考えている。

 

■おわりに

「テンバガー(ten-bagger)」とは、ピーターリンチがその著書のなかで書いていて、いつかは自分もこういう株を所有したいものだと思っていた。気がついたらそこそこ叶っていた。時間さえかければ可能なのだ。

なお、テンバガーとは10塁打の意。野球用語なのだ。テンバーガーではない。

【提言】独自指標の決算書上の公表は厳しく規制すべきこと

独自指標と称して会計基準に準拠しない経営指標を決算書に記載する場合はすべてに【基準外】の文言を添えることを強制すべき。
有価証券報告書 <- 金融庁
決算短信 <- 証取。
基準に従った数値と基準を無視した指標を会計の素人は区別できない。悪意の経営者に個人投資家が喰い物にされている。